本命チョコの行方

★2017年バレンタインSS。ノワール視点。

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夕飯の買い物客で賑わう商店街。
その店先には「本日バレンタインデー」と書かれたポップや多種多様なチョコレートが所狭しと並んでいる。
二月十四日もあとわずか。
そろそろチョコレートが値引きされて売られる時間だろうか。値引きされても買われなかったチョコレートはどうなるのだろうか。
そんなどうでもいいことを思いながら、道の端を歩いていた。
行きかう人々の中にふと見知った姿を発見する。クレンズだ。

「ノワールさん!」

クレンズも俺に気付いたようで、護衛の女を連れて、無邪気な笑顔を見せながらこちらに向かってきた。

「良かった。ノワールさんに会いたかったんです!」

クレンズが嬉しそうに声を弾ませて、手を叩く。
俺は基本的に神出鬼没で気まぐれだから、会おうと思って会えるわけではない。
会えるかどうかは運と俺の気分次第。
感動の再会を祝うかのようなクレンズの盛り上がりが面白くて、「そりゃ良かった」とクレンズの頭を撫でる。
クレンズは満面の笑みを見せて、肩にかけたショッピング袋に手を入れた。

「バレンタインチョコです! ノワールさんにはビターめに作ったチョコをあげますね」

どうぞ、と手渡されたのは可愛らしいクマの描かれた緑の袋。
リボンを解くと中にはハート形や星形のチョコがいくつか入っていた。
それを一つ摘まんで口の中に放り込む。ほろ苦さと甘さが程よく溶け合い、口の中に広がっていった。

「丁度良いほろ苦さだな。美味しいぞ」

俺の感想にクレンズと護衛の女が「やったぁ」と軽めのハイタッチを交わす。
女の子らしい喜びの表現が実に微笑ましい。

「ちなみに本命チョコは渡したのか?」

俺の発言にクレンズがうつむいて頬に手を添える。
どうやら恥ずかしがっているようだ。
本命の相手は聞かずともわかっている。リガードだ。

「本命の相手は誰なんだ? いるんだろ?」

わかっていながら敢えて質問を投げかける。
クレンズはせわしなく目線を泳がせて、スカートの裾を握りしめた。
困ってる、困ってる。
その仕草が愛らしくて思わずニヤついてしまう。
さて、どう答えるか。
クレンズは一、二回深呼吸した後、真っ直ぐに俺を見る。

「……内緒です」

口元に人差し指を当てて、にこりと笑う。
はにかんだように笑ったその顔が何とも可愛らしかった。

「ホワイトデーのお返し、豪華にするからさ、教えてよ」

「……考えておきます!」

考えておく、ということはホワイトデーのお返し次第では教えてくれるかもしれない。
どんなお返しで口を割らせようか。
「それじゃあ、また」と去っていくクレンズと護衛の女を見送りながら、来るホワイトデーに向けた贈り物を考え始めた。

UP:2017/02/09

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