【Vol.11:ユリアとボーと影の魔物】

ユリアとボーはクルトの持つランプの光を追って、森の中へと入っていきました。
「わっ」
ユリアは足を木の根に引っかけて転んでしまいました。
「大丈夫か?! ユリア!」
ボーがうずくまるユリアに声をかけました。
「うん。大丈夫。ちょっと擦りむいただけだから」
ユリアは立ち上がって砂埃を払いました。
「クルト、見失っちゃったな……どうしよう」
「困ったね、ボー」

ユリアとボーは恐る恐る森の奥へと進んでいきました。
すると横の木々がガサガサと音を立てて揺れました。
「魔力だ……魔力を感じるぞ」
大きな目玉が二つに大きな牙がたくさん生えた黒いものが低い声でうなりました。
それは影の魔物でした。
「ユリア! 逃げよう!」
ボーが叫んだのと同時に、ユリアは大きな黒い手に捕まってしまいました。
「ユリアを離せ!」
ボーが影の魔物をくちばしで突きましたが、ビクともしません。

『Lux!』
森の奥からクルトの声がしたかと思うと、まばゆい光が森を包みました。
影の魔物はユリアから手を離して、二つの大きな目玉を大きな手で覆いました。
そして、地面でのたうち回りました。
小さな子供を抱えたクルトからケルベロスの大きな影が伸びて、影の魔物をあっという間に飲み込んでしまいました。

「大丈夫? 二人共」
クルトはユリアとボーに駆け寄って心配そうに顔を覗き込みました。
「大丈夫だぞ! クルト! 助けてくれてありがとう!」
ボーが羽をばたつかせて答えました。
「良かった。でも二人共、危ないから付いてきちゃダメだよ」
クルトは強い口調でユリアとボーに言いました。
「「ごめんなさい」」
ユリアとボーが声をそろえて謝ると、クルトは二人の頭を撫でて言いました。
「ユリアもボーもまだ小さいから無理しちゃダメだよ」
「うん。わかったよ」
「はーい」
ユリアとボーはそれぞれ返事をしました。

「早くこの子をご両親の元へ送らないと」
クルトは右手で抱えていた小さな男の子に目線を送りました。
小さな男の子は目をつぶって眠っているようでした。
ボーとケルベロスは影に隠れ、ユリアとクルトは町の方へと歩いていきました。
小さな男の子を無事に両親の元へ送り届けると、町の皆から歓声が上がりました。
「賢者様、ありがとうございます!」
両親は深々と頭を下げてお礼を言うと、男の子を連れて家の方へと帰っていきました。
その姿を見届けて、ユリアとクルトは宿へと戻りました。

「今日はもう遅いから寝よう」
「そうだな! おやすみなさい!」
「おやすみなさい」
こうしてユリアとボーとクルトは眠りにつきました。

UP:2020/09/01

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