【Vol.13:ユリアとボー、怒る】

「ユリア、起きて。もうすぐ北の町だよ」
クルトの優しい声で目が覚めたユリアはゆっくりと背筋を伸ばしました。
やがて馬車の歩みが遅くなり、町の端で止まりました。
ユリアとクルトが馬車から降りると、馬車は再び元の道へと走り出しました。

「なぁ、クルト。町の様子が変だぞ」
ボーが小声でクルトに話しかけました。
「うん。町に人の気配がないね」
クルトがゆっくり歩き始めたので、ユリアは後ろを追いかけました。
商店街の道にはたくさんの商品が散らばっていて、人が一人も見当たりません。
「どうして誰もいないの?」
ユリアの問いかけにクルトが振り返った瞬間、クルトの肩に石が当たりました。
石が飛んできた方を見ると、少年と少女が泣きながらこちらを睨んでいました。

「皆を返せ、悪魔!」
そう叫ぶとクルトにたくさん石や物をぶつけました。
ユリアは胸の中が熱く、痛くなるのを感じました。
「いきなり何をするんだ!」
ボーがユリアの影から出てくると少年と少女が驚いて尻もちをつきました。
「影の魔物だー!」
そう言って少年と少女は遠くの方へと走り去っていきました。

「クルト、大丈夫か?!」
ボーがクルトの周りを飛び回っていると、クルトが弱々しい笑みを返しました。
「大丈夫。平気だよ。きっとラーシュがこの町の人達を飲み込んでしまったんだね……」
転がっていたリンゴを拾いながらうつむくクルトに、ユリアは何も言えずにいました。
「クルトは悪くない」
ユリアは胸の奥に渦巻く熱いものを感じながら言いました。
ユリアは「怒る」ということを思い出しました。

UP:2020/09/03

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