【Vol.14:ユリアとボーとラーシュ】

ユリアとクルトは町を歩き回りましたが、どこを見ても人は一人もいませんでした。
家の窓から中をのぞいても、しんと静まり返っていて、人の気配はありませんでした。
「やっぱり誰もいないぞ! 皆、ヒュドラに飲み込まれたのかな?」
「そうだね……」
ボーの言葉にクルトは思い詰めたような声で答えました。
クルトの苦しそうな表情を見て、ユリアが声をかけようとしたその時、ユリアの体が宙に浮きました。

「ユリア!」
クルトが手を伸ばしてユリアを引っ張ろうとしましたが、その手は虚しく宙をかきました。
ユリアの体がみるみるうちに高い所まで上がっていき、屋根まで届くと、不意に誰かの腕の中に収まりました。
驚いてその腕の持ち主を見ると、それはクルトにそっくりな顔をした青年でした。

「ラーシュ!」
建物の下からクルトとケルベロスが叫びました。
「久し振りだね、兄さん」
ラーシュはユリアを抱えながら微笑みました。
「ユリアを離せ!」
ボーがラーシュをくちばしで突こうとすると、ラーシュの影から現れたヒュドラに締め上げられてしまいました。
「うっ……!」
ボーが苦しそうな声をあげました。
ユリアはボーに手を伸ばそうとしますが、上手くいきません。

「それじゃあ、兄さん。この子は貰っていくよ」
ニヤリと恐ろしい笑みを浮かべたラーシュにユリアは体を震わせました。
「待て、ラーシュ!」
クルトが下から叫んでいます。
ラーシュはユリアを抱えて、屋根から屋根へ飛び移り、そのまま建物の下に飛び降り、繋がれていた馬に乗りました。
ユリアは抵抗しましたが、ラーシュに魔術をかけられて、そのまま眠ってしまいました。

UP:2020/09/03

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