【Vol.15:ユリアとボーと弟の苦悩】

暗い部屋のベッドの中で、ユリアは目を覚ましました。
右手を動かそうとすると、ガシャッと音がしました。
ユリアの右手はベッドの縁に鎖で繋がれていました。
「ユリア! 目が覚めたんだな!」
ボーが嬉しそうにユリアの周りを飛び回りました。
「ラーシュがユリアをここに連れて来たんだ。ここは城の中なんだ」
随分立派な城であったとボーはユリアに言いました。
ヒュドラが城の中の王族、貴族、そして城下町に住む人々を全て飲み込んでしまったのだとボーはユリアに教えました。

「目が覚めたようだね」
ドアの開く音と共にラーシュが姿を現しました。
ラーシュはベッドの横に置かれていた椅子に座るとじっとユリアを見ました。
「ユリアと言ったね。君はどうして僕の兄さんと一緒にいたのかな?」
ユリアはクルトと出会った経緯をラーシュに話しました。
「そうか。病気になった君を介抱したんだね。相変わらず優しい兄さんだ」
苦しそうな笑みを浮かべるラーシュにユリアは驚きました。
この人はユリアの村の人達や町の人達を襲った人。悪い人なのに。
その笑みを見ていると、何だか責める気にはなれませんでした。

「ラーシュ! ユリアの村の人達や町の人達を返せ!」
ボーが怒りながら、ラーシュの周りを飛び回りました。
「それは出来ないな。彼らはヒュドラの魔力の糧になっているからね」
ラーシュの影から現れたヒュドラに威嚇され、ボーはユリアの肩にとまりました。
「クルトとラーシュは兄弟で顔もそっくりなのに、全然違う! クルトは良い奴なのに、お前は悪い奴だ!」
ボーの放ったその言葉に、ラーシュは眉をひそめました。
とても怒っているようです。
「いつもいつも兄さんと比べられる気持ちがお前達にわかるか?!」
ラーシュが叫びました。
「兄さんは賢くて優しくて魔術の才能もあった。皆にもてはやされて、いつもいつも兄さんだけが大切にされた! 僕はいつだって何をしていても兄さんの存在に苦しめられてきた!」
声を荒げていたラーシュは、やがてため息を漏らしました。
「……こんなこと君達に話したってどうにもならないね」
ラーシュは椅子から立ち上がりました。

「まぁ、いい。この城と城下町の者を飲み込んで、ヒュドラはかつてない程の魔力を得た。 これで兄さんに勝てる……」
ふらりと扉に向かって歩くラーシュは歪んだ笑みを浮かべていました。
「クルトをどうするつもりだ!」
ボーの叫びにラーシュは振り返りました。
「兄さんを倒して、僕の方が優れていることを証明する」
それだけ言い残して、ラーシュは扉を開けて出ていきました。

UP:2020/09/04

前ページ   目次へ   Vol.16:ユリアとボーと魔法の力

inserted by FC2 system