【Vol.17:ユリアとボー、泣く】

ユリアが扉を開けると、そこは王様の謁見の間でした。
王座の前に立つラーシュと向かい合うようにしてクルトが立っていました。
二人の背にはヒュドラとケルベロスが顔を出し、お互い威嚇し合っていました。
ユリアとボーはクルトに駆け寄りました。

「ユリア! ボー! 無事で良かった!」
クルトがユリアとボーの頭を優しく撫でました。
「おかしいな。鎖を繋げて地下牢に閉じ込めておいたのに。魔法で逃げ出してきたのかな?」
ラーシュはユリアに向かってゆっくり微笑みました。
とても優しい笑みでしたが、どこか恐ろしさを感じました。
「ラーシュ。もう人々を苦しめるのは止めよう! 飲み込んだ人達を返すんだ!」
クルトは大声をあげてラーシュを説得しました。
ですが、ラーシュは首を縦には振りません。
ただ薄く微笑むばかりでした。

「兄さんはいつも優しいね。そういうところが憎いんだ……」
ラーシュに後ろから伸びたヒュドラの影が舌を鳴らし始めました。
「まずはその女の子から喰ってやる!」
ヒュドラが一斉にユリアとボーの方へと向かっていきました。

「危ない!」
クルトが叫びました。
ユリアは怖くなって目を閉じました。
あれ? とユリアは疑問に思いました。
身体がちっとも痛くないからです。
恐る恐る目を開けると、クルトが血を流して倒れていました。

「「クルト!」」
ユリアとボーとケルベロスが叫びました。
すると、クルトはユリアの腕を掴みました。
「逃げるんだ、ユリア、ボー……」
クルトはそう言うと、目を閉じ、気絶してしまいました。
「クルト……」
ユリアの目から生温かいものが流れ出しました。
ユリアは「泣く」ということを思い出しました。

UP:2020/09/06

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