【Vol.18:ユリアとボーと涙】

「許さない……」
ユリアはふらりと立ち上がりました。
「そうだ! クルトはな! お前の悪行を本気で止めようとしていたんだ!」
ボーが力いっぱい叫びました。
「兄さんが……? ふふ。それは僕が飲み込んだ人間達を想ってのことだろう?」
ラーシュは乾いた笑みを浮かべました。

「それもあるけど……それだけじゃない」
ユリアの真剣な表情にラーシュが身を固くしました。
「クルトは……あなたを本当に大切な人と言っていた。いつもあなたを気にかけていた。だから私達と旅して、ここまで来たんだよ」
ユリアの目からポロリポロリと涙が生まれました。
クルトとラーシュのことを想い、泣きました。
先程までの怒りは消え、悲しいという感情がユリアを包み込みました。

ラーシュはユリアをじっと見つめた後、その場で膝を折り、頭をかきむしりました。
「僕は……僕はどうすればいいんだ……」
ラーシュの悲痛な声を聞き、ユリアは立ちつくしていました。
すると、ボーがユリアの肩を突きました。
「早くクルトを治さないと! 治れ! って念じてみて!」
ユリアはクルトの身体に手を置き、治れ! と念じました。
ゆっくりと傷が塞がっていきましたが、なかなか治すことが出来ません。
「きっと傷口が深いんだ……。早く治さないとクルトが……!」
羽をばたつかせるボーにユリアは焦りました。

どうしよう……。そう思っていると肩をポンと叩かれました。
ユリアが振り返ると、ラーシュが優しく微笑んでいました。
「僕が治すよ」
そう言うとヒュドラを背中から出し、九匹いるうちの一匹の頭をクルトに近付けました。
その目から大きな涙が落ちました。
すると、どうでしょう。
クルトの傷が一瞬で閉じたのです。

「う……」
クルトが目を開けました。
「「クルト!」」
ユリアとボーはクルトに抱きつきました。
クルトは身体を起こし、ユリアとボーを包み込みました。
「ありがとう、二人共」
クルトの背から伸びたケルベロス達もホッとした表情を見せました。

「ラーシュ……」
クルトはラーシュを見つめました。
「兄さん……ごめんなさい……僕が間違っていたよ……」
ラーシュがポタポタと涙を流しました。
クルトはラーシュを抱き寄せ、頭を優しく撫でました。
そんな二人をユリアとボーは優しい顔で見つめました。

UP:2020/09/07

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