【Vol.19:ユリアとボー、笑う】

「ユリア、すまなかった。皆を返すよ」
ラーシュは流した涙を拭いながらユリアに言いました。
「うん、ありがとう」
ユリアは無表情のまま呟きました。
「どうか、君の心に嬉しいの気持ちが戻りますように……」
ラーシュは胸に手を置き、ヒュドラの影を呼びました。
そしてその口から次々と人間を吐き出しました。
王族、貴族、城下町の人達。村の人達。
そして――。

「お父さん! お母さん!」
ユリアは駆け出しました。
ユリアに気付いたお父さんとお母さんはユリアを抱きしめました。
「ユリア……良かった……無事で……」
涙を流すお父さんとお母さんの横でボーが笑っていました。
「良かったね、ユリア」
ユリアの胸がポカポカと温かくなり、口の端が上がりました。
「ユリア! 笑ってる!」
「最後の感情を取り戻したんだね」
ボーとクルトが笑いました。
そう、ユリアは「笑う」ということを思い出したのです。

笑い声と涙声があふれる人々の輪の中で、ユリアとボーの身体が光りました。
するとユリアの背からボーが離れ、巨大化していきました。
「元に戻った! 元に戻ったぞ!」
大きな鷲の姿へと戻ったボーは嬉しそうに人々の頭上を旋回しました。
ひとしきり飛び回った後、小さな鷲の影に戻ってユリアの肩にとまりました。
「こちらの姿の方がすっかり慣れてしまったな」
そう口にしたボーにユリアはクスリと笑いました。
クルトとラーシュ、周りの人達も皆で一緒に笑いました。

UP:2020/09/07

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